太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
秋絵さんを除く皆で1階に降り、エントランスでお父さんとお母さん、友美さんに挨拶し、諒と2人で車に戻った。


「諒、こっちでお昼食べてから帰る?」
「うーん…早く帰りたいな」

「そうだよね、ちょっと早起きしたし疲れてるよね。じゃあ高速道路のサービスエリアに寄って軽く食べて帰ろうか」

「ん、そうしよっかな。でも疲れたからじゃないから。早く麻依とイチャイチャ…いやベタベタしたい」

ふふふ、諒ってばカワイイ。

「うん、じゃあ安全運転で早く帰って、たくさんイチャイチャしよ?」

「マジで?麻依がそう言ってくれんのすげぇ嬉しいんだけど。あーっ、今すぐイチャイチャしてぇ!」

「あはは、もう少し運転お願いしますね」

「ん、安全運転で頑張る。そのかわりご褒美ちょうだい?」

「もちろんいいよ!…あ、そういえば諒、結婚の挨拶するなんて聞いてなかったよ?」

「…ごめん。今日、関係者全員集まるし、できれば結婚の挨拶をしときたいなって前から考えてはいたんだけど、あの時ちょうどそんな話になったから。…麻依にプロポーズする前で、親から外堀埋める感じになっちゃったけど…怒ってる?」

「ううん、怒ってないよ。驚いたけど嬉しかった。…ね、諒も緊張してたの?」

「そりゃあね。麻依のお母さんとは初対面だし、結婚の挨拶なんてもちろんしたことないし、すげぇ緊張した」

「全然そうは見えなかったよ?すごく堂々としてて…かっこよかった」

「そう?…ふ、それならよかった。少しは仕事が役に立ってるのかな」

「仕事?」

「お客の前で自信なさそうにしてたら不安にさせるだろ?だからそれを見せない努力はしてるから」

「そうなんだ…諒はいつでも自信持ってできてるんだと思ってた」

「ははは、俺ってそんなに優等生に見える?」

「見える見える!」

「実はそうでもないんだなー、残念ながら」

「そんなことないよ?自信があるように見せられる時点で諒は優等生だと思うけど」

「仕事に厳しい麻依がそう言ってくれるなら、ありがたく受けとる。ほんと麻依には勝てないな」

「えぇ…勝てないのは私の方なのに…」

「何に勝てないの?」

「仕事でも何でも。それに…いつもなんだかんだで諒に言いくるめられちゃうんだもん…」

「そこは負けたくないからね」

うっ、ちょっと妖艶さが漂う目になった…と思ったら、次の瞬間〝ワクワク〞の目に変わった。

「あっそうそう、麻依のお母さんからもらった蓑部(みのべ)さんの招待券の、いつ行く?」


そうだ、お母さんから有名な画家さんの個展の招待券をもらったんだった。

〝蓑部 洋(みのべ ひろし)〞
世界的に名を馳せている、抽象画で有名な画家。

私は美術方面全般詳しくないのだけど、実は諒がこの蓑部さんの絵が好きで、作品集の他、作品のポストカードも持っている。
その内のいくつかは部屋にも飾ってあるので作品については私もある程度知っている。


諒は蓑部さんの作品の中でも特にお気に入りの1枚の絵がある。

それは、夕焼けの中を歩く家族3人の後ろ姿で、父親と母親の真ん中に手を繋がれた小さな子供がいて、両親に優しい顔を向けられている絵。

〝蓑部といえば抽象画〞と言われている彼の、優しいタッチの人物画は珍しくもあり、ある意味注目されている有名な絵なんだそう。

後ろ姿の子供が嬉しそうな感じが手に取るようにわかり、見ていると心がじんわり温かくなっていくの。
諒はこの絵に自分の理想があると言っていて、私もお気に入りの絵だったりする。

今回の個展ではその本物が見られるというので、諒は今からワクワクしているんだ。


「そうだね…えっと、最終日が12月25日なんだね。確か12月のソレイユの休業日って25日だったよね?…他で2人で休める日ってあったかな…」

「じゃあ12月24日に1泊して見に行く?」

「え?お泊まりで?」

「うん、だって東京でしょ?ゆっくりしたいじゃん」

「でも24日も休めるかな…」

「何なら仕事の状況を見て午後からの出発でもいいし」

「ん、ひよりんと相談してみるね」

「あぁ、俺も修さん達に聞いてみる。…ところで」

「ん?」

「麻依が学生の頃、モテてたって話。俺、初めて聞いたんだけど?」

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