太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
お母さんが予約してくれていたのは中華の名店で、個室を用意してくれていた。

「今日はクリスマスだから、あえて中華にしたの。みんな昨日今日は洋食でしょ?」

「ふふっ、そこまで考えてくれたんだ、ありがとう」

「麻依の気配り上手はお母さん譲りなんだね、きっと」

「え、私なんて全然だよ」

「何言ってるんですか!麻依先輩は気配りの天才です!」

「そっスね、それは俺も思います」

「いやいやいや…それは諒もひよりんも翔琉くんも一緒だよ。みんな仕事でもプライベートでも思いやりがあって、相手の事をちゃんと考えてくれるんだから」

「ふ、ありがと、麻依」
優しい笑顔で答えてくれた諒が、やんわりとこの話を終わらせてくれた。


「私、コースとか堅苦しくて苦手なのよね。だから今日は食べ放題にしたから、好きなのどんどん頼んじゃって!ソフトドリンクも飲み放題よ!」

というお母さんの言葉に、みんなそれぞれ好きなメニューを頼み始めた。


ひよりんと翔琉くんはお互いに頼んだのをシェアしてて、本当に仲良しさん。

ひよりんが頼んだけど予想外に辛かったのを、翔琉くんが「これ俺好きだから、全部もーらいっ」って言って食べてあげたり。


諒と私もそれと同じような事をしているのだけど、ひよりんと翔琉くんのやり取りを見ていると優しい時間が流れているようで心がほっこりする。


「あっそうそう。お母さん、昨日蓑部さんにお会いしたんだよ。ギャラリーで声をかけられて、後から3人でお茶しながらお話ししたの」

「あら、そうだったの」

「えっ…麻依さん、ギャラリーで蓑部さんて…まさか蓑部洋?」

「はい、そうです。戸田さん、ご存知ですか?」

「もちろんですよ!俺、蓑部さんの作品が好きで、今回の個展もチケットを貰って早々に見に行きましたから!…でも何で声をかけられたんですか?」

「私のことは、芳名帳に書いた羽倉って名前を見て、お母さんの娘じゃないかって。お母さん、招待券を娘に譲るかも、って蓑部さんに言ったんでしょ?」

「えぇ。勝手に渡したら失礼だと思って蓑部さんに言っておいたの。それで、蓑部さんは何て?」

「あのね、蓑部さんと諒のお父さんがお知り合いだったの」

「諒くんのお父さんて雅晴さんよね?確かに画家だったけど、親交があったのねぇ」

諒から話した方がいいかな、と思って諒を見ると、フッと笑顔を返してくれた。

「はい、蓑部さんは父のことを弟の様に思って下さっていたそうです。それで俺のことも知ってくれてて」

「そうだったの…」

「それでねお母さん、蓑部さんの絵で、親子3人が描かれたのがあるんだけど、知ってる?」

「えぇ知ってるわよ、優しくて素敵な絵よね。それに蓑部さんには珍しい人物画だから有名なのよね」

「もちろん俺も知ってますよ!親子の親愛の情が滲み出てるあの絵ですよね!後ろ姿で顔は見えないけど、表情が見えるというか…自然と思い浮かぶんですよね…」

鼻息荒く話し出して、最後はウン…ウン…と目を閉じて一人頷く戸田さん。その絵を思い出してるみたい。


「でね、その絵の3人って諒たちを描いたんだって。諒と諒のお父さんとお母さん」

「えっ、そうなの?」
「えぇっ!?」

戸田さんの閉じていた目が一気にパチーッと開いた。お顔が忙しそう。


「はい、そう仰ってました。俺も昔からあの絵に惹かれていて、あの絵の家族が理想だなって思ってたくらいなので、それを聞いて自分でもまだ信じられないですけどね」


「…あの絵に関しては蓑部さんは今まで言及してこなかったのに…本当なんですね…絵のモデルになるほど蓑部さんと近いお知り合いとは…いや、参りました」

戸田さんが、座ったまま諒に頭を下げた。
よっぽど蓑部さんがお好きなんですね…


「諒さんもすげぇ環境じゃないスか」

「いや、俺も昨日知ったばかりだし、俺がすごいわけではないし」

「ほんとに2人でびっくりしたもんね、ふふっ。諒ね、蓑部さんに、雅晴さんの息子なら俺の息子も同然だから今後は頼ってほしいって言ってもらってね。だからこれからは個展に行かせてもらったり、年賀状とかで繋がりを持たせてもらおうと思って」

「そうね、それがいいわね。きっと喜んでいただけるわよ」


「はぁ…素敵な繋がりですねぇ」
「ほんとに素敵ですぅ」

ひよりんと松下さんのそっくりコンビが口を揃えて言う。
なんだか姉妹のようで可愛らしいな。


「それじゃあそろそろデザートでも頼みましょうか」

「うん、そうだね」

それぞれまたメニューをみて注文すると、諒が「ちょっと席はずすね」と個室から出ていった。
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