太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
バーの店内には既にちらほら客がおり、JAZZのBGMも程よく他者の会話を打ち消してくれそうだった。

月乃さんが指定したのか目立ちにくい隅の席に案内され、座ると俺はウェイターにこっそりウーロン茶を頼み、すぐに切り出した。
「それで、話とは何でしょうか」

「ねぇ諒クン、久しぶりの再会なんだし…飲みながらゆっくり話しましょう?」

「すみませんが麻依の…妻の身体が心配なので早く戻りたいんです。…ですので早く聞かせてくれませんか。でなければもう戻りますが」


「…マイさんて…さっき一緒にいた…お腹の大きな女性?」

「えぇ、私の子どもがお腹にいます」

そう答えると、ふっ…と影のある表情を見せた。


「…おかしいわね……アタシを迎えに来てくれたんでしょう?」

「あの、さっきから一体何なんですか?元カノとか迎えに来るとか…さっきも再会って…」

「諒クン、もうからかうのはおしまいよ?…覚えてるんでしょ?」

「いえ。本当に何なんですか?訳がわからないのですが」

「まさか…本当にアタシがわからないの?元恋人のアタシを…」

「元恋人?」

たぶん俺、すげぇ怪訝な顔してるよな。
月乃さんが真顔で驚いてるし。

「本当に覚えてなかったのね…」

「はい」
てことは、麻依が言ってた通りなのか…?


「そう……福岡 靖子(ふくおか やすこ)…って…思い出せない?」


福岡さん…?…んー…

…もし麻依の言うとおり、前の職場の時の元カノだとしたら…
「佐々木さんの同級生…の方…ですか?」

「そうよ!佐々木くんの同級生の!思い出してくれた!?」

「あ…いや…」

顔も名前も全然思い出せないな…こんなキツめの顔の人だっけ…
美人と言われる顔かもしれないけど…記憶にはない。


「そっか…アタシを忘れちゃうほど、たくさんの人とお付き合いしてきたのね…」

「いえ」
覚えてないのはただ興味がなかっただけです、とはさすがに言っちゃいけないよな。


「でも諒クン、アタシにプロポーズしてくれたよね」

「ですから、何ですかそれ…」

「その分だと、それも覚えてなかったのね」

「いや、覚えてないも何もそんなこと言いませんから」

「嘘よ、言ったはずだわ」

「いえ、俺は好きでもない、興味もない人にプロポーズなんてしません!プロポーズも結婚も、生涯で唯一愛する麻依、ただ一人だけですから!」

…言い方が失礼な事は百も承知だ。
でもこれは絶対に頷くことはできない。
ハッキリと言わせてもらう。


「でもね、私はちゃんと聞いているのよ?…だから今まで誰とも結婚しなかったの。迎えに来てくれると言った諒クンのために」

「その〝迎えに来る〞って、何の話ですか?」

「諒クンが言ったんでしょう?アタシがモデルとして成功したら必ず迎えに行く、って聞いてるもの。アタシがモデルになりたいって思ってた事、佐々木くんから聞いてたんでしょ?」


「何ですかそれ……俺は全く身に覚えがありません。モデルがどうこうとか、それも知りませんし、もちろん迎えに行くなんて事も言ってません」

「……そこまで言うって事は……諒クンはアタシと結婚しないつもり?」

「はい。俺は麻依しか愛せないので、麻依と添い遂げます」


「そう……わかったわ」


ホッ…よかった…諦めてくれたか。


「なら…諒クンを結婚詐欺で訴えるわ」

< 233 / 268 >

この作品をシェア

pagetop