あたしを歌ってよ

悠馬くんは持っていたらしい包丁を置いて、あたしのほうへ近寄ってきてくれた。

エプロン姿も様になる。

カッコいい。



「バイト先の先輩に、急にシフト変わってくれって言われてさー。だから、することないし、帰ってきたんだ」



ちょっと残念そうな悠馬くんに、
「でも、早く会えて嬉しい」
と伝えると、
「おっ、嬉しいー」
と、あたしを抱きしめた。



「!?悠馬くん、なんか、玉ねぎの匂いがする」

「あっ、玉ねぎ切ってたから。カレーライス作るつもりでさー。あはははっ、ごめん、ごめん」



そう言って離れかけた悠馬くんの体に、あたしはもう一度抱きついて、
「玉ねぎの匂いがしててもいいから、ぎゅうってして」
と言った。



「……何かあった?」



悠馬くんはあたしをぎゅうっと抱きしめてくれた。



(元カノに会ったよ)



心の中で話しかけた。



(すっごく美人な人だったよ?悠馬くん、あの人のことが好きだったんだよね?)



心の中が。

暗い色になっていく。



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