あたしを歌ってよ

あたし?

あたしが欲しいもの……。



『歌ってほしいんだ。悠馬くんのその声で、あたしの、あたしだけの、歌』



かつて。

悠馬くんに言った言葉。



「先生?」

「……先生は、先生の欲しいものは」

「うん、何ですか?」



「……休日です」



「……」

「……」



「……先生、それ、プレゼントできないやつ」

「ですね」



男子生徒は「もういいや」と、笑って去って行った。






担任を受け持っている二年一組の教室に行って、ホームルームを終わらせた。

わちゃわちゃした教室内で。

女子生徒が、
「えー、この人達超いいじゃん」
と、言った。



スマートフォンは授業中以外なら持っていても問題ない、という校則だけど。

なんだか気になってしまって。

あたしは近づいて行った。





「どうしたんですか?」

「あ、先生っ、見て!」



女子生徒数人グループの中のリーダー的存在である生徒が、あたしにスマートフォンを見せる。



< 53 / 72 >

この作品をシェア

pagetop