あたしを歌ってよ

メッセージの着信だと思っていたけれど、電話がかかってきているとわかって、更にあたしは緊張した。



「……もしもし」



緊張した声で、電話に出た。

電話の向こう。

悠馬くんがかすかに笑ったような気配。



『もしもし、鞠奈?』



六年ぶりの、悠馬くんの声。

六年ぶりに、その声であたしを呼んでくれた。



「悠馬くん、久しぶり」

『うん。元気だった?』

「元気だよ。あたし、先生になる夢、叶えたよ」



悠馬くんは「すごいじゃん」と言って、
「良かったな。鞠奈、頑張ったんだな」
と、優しい声で言ってくれた。



(泣きそう……)



悠馬くんはどこにいるんだろう?

電話越しじゃ歯痒くて。



「悠馬く……」
と、声をかけたその時。



窓の外で救急車のサイレンの音。



『救急車が通ります』という音声が流れている。

サイレンの音が。

その音声が。

電話の向こうからも聞こえてきた。



< 65 / 72 >

この作品をシェア

pagetop