偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています
 最後に出されたデセールと紅茶が綺麗さっぱり無くなると、さすがにお腹はいっぱいだ。

 明日はジム行きだな……

 お腹を摩りながら思う。食べるわりには太らないみたいだけど、さすがにこの年齢になるとそうはいかない。それなりに努力も必要だ。これと言って趣味もない自分にはジムはうってつけだ。

 倉木さんは趣味ってあるのかな?

 また無口になった倉木さんは、同じように皿を綺麗にして真顔でコーヒーを啜っていた。
 この表情の落差はなんだろう? 気のせい? とその顔をチラッと見る。

 そう言えばさっき様子がおかしかったな…… 

 ふと思い出し尋ねてみることにした。

「倉木さん。私に何かおっしゃりたいことはないんですか?」

 横を向き涼しい顔をしていた倉木さんは、その質問にあからさまに驚いている。

「……え?」

 その驚いた顔でさえ格好いい。ちょっと動揺しているようだけど。

「いえ。なんとなく時々何か言いたげにされていたものですから。粗相でもありましたか?」

 こうなると秘書にモードチェンジだ。私は自分の上司に尋ねるような顔をする。

「……ええと。その、千春さん」

 持っていたカップを置くと、倉木さんは決心したように顔を上げた。

「また会えますよね。次はいつ会えますか? 会ってくれますよね?」
「え…………?」

 それしか出てこなかった。
 倉木さんは突然豹変したのだ。
 道に捨てられた『子犬』に。
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