偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています
 なんかしてやられた気もしないでもないが、その後倉木さんはご満悦の様子で私をタクシー乗り場まで送ってくれた。
 もちろんその前に連絡先の交換は忘れずに。

「はぁ〜。なんかもう、どうすればいいのよ。私はもうちょっとこう、気軽にご飯だけ食べるつもりだったのに」

 溜め息を吐きつつ、私はヘアオイルを手に取ると程よく乾いた髪に塗り始める。

『いいじゃん。気軽にドライブ行けば』
「簡単に言うけど、ドライブデートなんてしたことないんですけど?」
『あぁ、千春の歴代彼氏に車持ちいないっけ。じゃあ尚更普段行けないとこ連れてってもらえば?』

 他人事だと思って夏帆は軽い調子だ。より一層深い溜め息しか出なかった。

「なんでよ。断る前提なのに」
『別に無理して断らなくていいじゃん』
「ちょっと夏帆? 面白がってるでしょ?」
『あ、バレた?』

 明らかに笑っている夏帆に、今から家に乗り込んで文句言ってやろうかと呆れ果てる。

『でもさ、せっかくだし、楽しめばいいんだって。行くとしたらどんなところがいい?』

「えぇ〜。もうどこでもいいよ。そんなに遠くなくて、景色がいいとこ。あと美味しいスイーツにありつけたら文句ないな」
『ふんふん。なるほど。じゃあ向こうにそういえば?』
「言えるわけないでしょ! 面倒だからお任せです!」
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