先生。~ 放課後の教室 ~
第1章

* Story1. 朝の教室 *

「おはようございます」


「おはよーございまーす」


これが、いつもの最初のやり取り。


彼は毎日、この教室に入ってくるとクラスのみんな

1人1人に挨拶をして回る。


彼にとっても。私たちにとっても。


このクラスになってからの日課だった。





ほんの少し紅葉した山々がとても幻想的な11月中旬。


―広瀬遥。


中学2年の14歳。


理数系苦手、どこにでもいる普通の女子中学生。


そんな私には、2人の頼れる親友がいる。


1人目は、上田心優(みわ)


ツインテールをしていて、私より少し身長が低め。


思ったことはしっかり伝えるタイプで、友達思いな性格。


私のお母さんと心優のお母さんは仲のいいママ友同士。


もう1人は、花園(はなぞの)愛結美。


綺麗なロングヘアが特徴。


心優と同じくらいの身長差。


私と同じクラスで、現在片想いの相手がいる。


ノリも良く、話すことが好きでいつも私と


心優を楽しませてくれる。


「はるちゃん、おはよー」


私がカバンの片付けをしていると、


後ろから愛結美の声がした。


「おはよー」


部活での朝練がキツかったかな。


愛結美の表情は少し疲れているみたい。


心優と愛結美は吹奏楽部に入っている。


心優はサックス担当、愛結美はパーカッション担当。


朝早い時間から部活が始まるため


疲れるのも無理はない。


「朝練、お疲れ様だね」


ホント大変そうだなぁ...。


私は、真後ろの席に座って突っ伏している愛結美を労った。


「ねぇ、はるちゃん。お願いだから吹奏楽入ってー?」


これ言われるの何回目だろう。


「お母さんが許してくれないんだよ~」


私は、親に吹奏楽へ入るのを反対されていた。


その理由は、"中学の間は志望する高校に


進学できるように勉強に専念してほしい"から。


本当は私も2人と一緒に入部する予定だった。


中学へ入学した頃、心優と吹奏楽部に入ることを約束していた。


でも結局、お母さんに止められて入部できなくなった為、


心優には少し申し訳ない気持ちがあった。


「本当は私も入るつもりだったんだけどね」


お母さんには逆らえないもん。


「宇野せんせーも『入れ入れ!』って言ってたよー?」


「それ、音楽の授業の時毎回言われる!」


宇野先生―音楽担当の先生。


吹奏楽部顧問でもある。


少し前の音楽の授業で行った歌のテストでの事。


私の歌声を聞いた宇野先生が


「広瀬さん、吹奏楽入る?」と


誘ってきたことが始まりだった。


その日から、宇野先生に会う度に吹奏楽部への


スカウトをされるようになった。
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