*触れられた頬* ―冬―
「カミエーリア、イズヴィニーチェ(ごめんなさいね)」

 ついにモモは母親から、愛情のこもった抱擁を返され、捧げられた。

 それに気付いたように、カミエーリアが少し早目の温かな夕食を供す。

 ダイニングテーブルに着いた凪徒とモモは、ロシア風水餃子の「ペリメニ」や伝統的な魚のスープ「ウハー」などの美味しさに驚き、二人の『椿』に微笑ましく見守られながら舌鼓を打った。

 その間に椿がカミエーリアへ全てを説明したのだが、既に大体のことは察していたらしい。

 話が次々と進む度に深々と(うなず)いて、にっこりと笑っては自分のことのように喜びを表した。

「凪徒さん……先に自分の話ばかりで大変失礼を致しました。それで、あの……凪徒さんは、どのようにして桃瀬と出逢ったのでしょうか? 桜社長様は、あの後の私の足跡(そくせき)辿(たど)られて、桃瀬を凪徒さんの妹として、育ててくださったということですか?」

「ああ、いえ……」

 食事の手を止めた凪徒は、少し困ったような顔でモモに視線を移した。

 それを感じたモモは、

「え、えーと、先輩は……あ、あたしの、先生です!!」

「先輩? 先生?」

 慌てたモモから飛び出した二文字二つに、正面の椿の瞳は丸くなり、呆れた凪徒からは冷たい横目が投げられた。

 モモは挙動不審に首を振り、視界に映り込んだ二人の様子に、思わず苦笑いを返していた──。


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