*触れられた頬* ―冬―
「まぁ着られるのがあって良かったな、“おチビちゃん”。んじゃ着替えたら、一通りステージ見せてもらって、今日は帰るぞ」

「おチビちゃんって~」

 日本であったら平均身長を(わず)かに欠ける位なのに……と、モモは少し拗ね気味にぼやき、相変わらず身体はこちらへ・顔は横を向いたまま、モモの髪をクシャクシャと掻き回した凪徒を、恨めしそうに仰ぎ見た。

 凪徒はヘタをするとロシア人よりもタッパのあるお陰で、他人の衣装でもそつなく着こなしていた。

 モモと正反対の黒地だが、ライン状の銀色のラメが肩から逆側の腰に向かって斜めに走り、これで舞台の上を舞ったらきっと流星のように美しいだろうと想像出来た。

 モモのスカートの裾にも銀ラメが散りばめられているので、良いコンビネーションとなりそうだ。

 ──しっかし、明日……やりづれぇな……。

 凪徒は衣装室へ戻るモモの露わになった細い背中を見つめて、顔を引きつらせた。と共に、

 ──あいつ、相当『寄せて・上げて・盛って』るんだな!

 勝手な想像を膨らませて、くっくと溢れ出す笑いを押さえながら、この朝と同様に背を丸め腹を抱えて、男性の衣装室へ戻っていった。



 ☆ ☆ ☆


< 141 / 238 >

この作品をシェア

pagetop