*触れられた頬* ―冬―
「夫人……いますか?」

 モモは鈴原夫妻の部屋の手前で、消極気味に声を掛けた。

 小さなコンテナハウスだが、お洒落(しゃれ)な夫人らしく小綺麗に片付けられ、扉の内側には可憐なレースの暖簾(のれん)が掛かっている。

「モモちゃん? どうぞ入って。私もちょうど呼びに行こうと思ってたの」

「え……?」

 暖簾のスリットから顔を出した夫人が微笑む。既に亭主の鈴原は動物達の世話に行ったらしく、室内には誰もいなかった。

「時間、大丈夫ですか?」

「もちろんよ。今お茶()れるわね」

 夫妻の部屋にはコタツがあるので、勧められた長手に腰を降ろし、布団の中に折った膝を入れると、其処からほんわか温まっていった。

「さ、どうぞ。先日知人から頂いた紅茶なんだけど、とっても美味しいの」

 そうして置かれた繊細なティーカップは、淡いオレンジの薔薇の模様が優美で、そこから香る紅茶もふくよか()(かぐわ)しかった。


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