*触れられた頬* ―冬―
「モモ。全ては暮から聞いておっての」

「「「え?」」」

 団長の告白に、一気に三人の驚きの顔が持ち上げられた。

「そこで質問だ。施設のことは抜きにして、モモの本音を言ってくれんかの。これから行こうと思っているサーカスに、モモ自身、ちゃんと行きたい理由はあるのかの?」

「──」

 表情を変えずに尋ねた団長の、とてつもなく巨大な難問に、モモは呼吸の仕方を忘れそうになった。

 自分自身の行きたい理由。

 自分の──確かに、それがなければ、きっと続かない……。

 言葉もなく見つめる六つの瞳に、モモは一旦口を閉ざしたが、ややあって震える唇が勝手に喋り出した。

「あ、新しいスタイルの世界で、自分の……可能性を見出したいんです……」

 ──嘘つき……オールド・サーカスでどれだけ心が弾んだのか、それは珠園サーカスで初めてショーを見た時と、ちっとも変わっていなかったのに……!

「もう……やめましょう、モモ」

 そんな心の叫びを隠そうとするモモに、そう言ったのは園長だった。

「園長先生……?」

 団長の隣に座る園長の口元も、同じく弓なりに微笑んでいた。

「団長さん。大変ご迷惑をお掛けしてしまいました。やはりこれはこちらの問題です。今後もモモのことをお願いしても宜しいでしょうか?」

「もちろんです、早野園長」

 モモの決心はすっかり無視されて、二人の間には(なご)やかな空気が生まれ、突如全てが無に()してしまう。


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