*触れられた頬* ―冬―
 杏奈の視線を感じた隼人は、

「三ツ矢も桜もその分野はまだまだ底が浅くてね……これからの未来を築いてくれるのは子供達なのに、(はぐく)む為のフィールドが整っていないと、以前から懸念はしていたんだ。ある程度の情報と知識は此処数年で収集し、基盤と云える物は出来始めたから、そろそろ動き出したいと……そうした上でのご提案──と申しますか、ご協力を仰ぎたいのですが……早野園長、貴女の児童養護施設も、弊社の事業計画にご賛同いただけませんでしょうか?」

「「「えっ──」」」

 と手渡された内容に応え、依頼した桜社長の熱意のある言葉に、再び三人は開けた口を閉じることが出来なかった。

 しかし。

「それは……桜コーポレーション様の管理下に置かれる、ということでございましょうか?」

 数秒寡黙に(うつむ)き、辛そうに顔を上げた園長の声は(ほの)かに(かす)れていた。

「現状継続も危ういわたくし共には、とても魅力的なお申し出ではございますが……申し訳ございません。私は……自分の経営方針を桜様のお考えに合わせられるとは、お約束出来かねます」

「母さんっ……」

 園長は再び口元に力を込め、自身の持つ強い意志を露わにした。

 茉柚子は折角のチャンスをと、途端に内から溢れ出す焦燥を母親にぶつけたが──


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