*触れられた頬* ―冬―
「そっんなことはどうだっていい!!」

 モモの背丈に合わせて折っている膝に両手を突き、はあぁ~と大きな息を吐く。

「とにかくっ! 辞めなくて済んだんだなっ!?」

「は、はい……ご心配を、お掛けしました……」

 ──何だよぉ~! それを先に言えっつぅのっ!!

 疲れたように首をガクッと落とし数秒静止していると、脳内を(めぐ)る色んな想いが込み上げてきた。

 やがて身体を伸ばし、(すご)んだ眼つきでモモを見下ろす。

「お前……お仕置き。デコ出せ」

「ひっ!?」

 ほぼ一年振りに聞こえた恐怖の台詞(セリフ)が、反射的にモモの両手を額の防御に向かわせていた。

 ──な、何で!? 行くなって言われて、行かなくなったのに、何で~っ!!

「今回はとびきり強力だから、目ぇつぶっとけ!」

「せ、先輩ぃ……」

 弱々しい抵抗の言葉も震える両手の盾も、凪徒の一喝と大きな左手でいとも簡単にはねのけられた。

 モモは仕方なくグッと歯を喰いしばり、ギュッと(まぶた)を閉じる。


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