*触れられた頬* ―冬―
「モモ」

 用を済ませて再び廊下に出たモモを呼び止めたのは園長だった。

「あ、はい。さっきはすみませんでした……久し振りに一緒に遊んでたら眠くなっちゃって……」

 振り向きざま照れ臭そうにはにかむ。

「みんなと遊んでくれて嬉しかったわ。それより……茉柚子がこれから話すことなんだけど……」

「はい……?」

 園長は一度床に目を落とし、モモを見上げて少女の両手を取った。

「お願いだから『自分』の行きたい道に進んでちょうだい。わたし達のことは二の次にして、()くまでも『自分』の心の(おもむ)く方へ……良いわね?」

「え? は、い……?」

 モモは園長の潤んだ瞳に胸の詰まる想いがした。

 一体これから何が話されるのか?

 茉柚子といい園長といい……明らかに楽しい話でないことは予測された。

「お願いよ。お願いだから『自分』を大切に……約束よ」

「は、はい」

 念を押されて意味も分からぬまま了解したモモを、園長は解き放し茉柚子の(もと)へ促した。

 歩を進めながら今一度振り返った先の園長は、いつになく小さく弱々しい姿に映った。


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