*触れられた頬* ―冬―
「モスクワったって……」

 凪徒は苦笑しながら口を閉ざしてしまった。モスクワだけでも人口一千万都市だ。一体どうやって探し出せと言うのだろう。

「まぁの。とにかく手掛かりを得た訳じゃし、見つかる(すべ)もおのずと見えてくるだろ。──で、だ。モモ、お母さんを探しに、ロシアへ行ってみないかの?」

「え──?」

 ほぼ蚊帳(かや)の外にいたと思われた団長が二人の会話を中断し、完全に制止されていたモモの時間を動かした。

 ──お母さん……探したい。でも──。

 自分はこれから一ヶ月もしない内に、此処を辞めなければいけないのだ。

「モモ、凪徒。此処での公演後、お前達に研修旅行をプレゼントしてやる。二人でモスクワに行ってこい」

「「えええええっ!?」」

 三度目の揃った大声の前には、にっこり微笑む団長と杏奈がいた。

「なっ、何で、俺まで!!」

 次に続いた凪徒のぼやきで、モモは慌てふためくその顔に釘付けになっていた──。


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