ふたりは同じ日、恋におちた。


俺は小刻みに揺れる彼女の手に気づいたが、それを受け取ることはしなかった。

お礼をされる理由が見当たらないからだ。


「お礼って俺なにもしてないけど」


「テッシュ……を開けてくれました」


「それだけじゃん」

俺がしたのは本当にそれだけ。

感謝されるようなことではない。

そもそも、俺が様子を見に行かなければ、彼女は慌てる必要もなかったはずだ。




「それだけじゃありません!私はすごく助かりました。それに……先輩は覚えてないかもしれませんが、1年前にも保健室で助けてもらったんです」


覚えてるのは俺だけだと思っていた話を彼女はキラキラとした目で語った。


ちゃんと覚えてるよ。

忘れられるわけがない。

ああ、そうだ彼女はこういう子だった。


手作りを避けて、わざわざ面と向かって渡しに来てくれたんだ。


俺は受け取らないはずだったその袋に手を伸ばす。


「ベッドの神様の次は何?ティッシュの神様?」

無意識のうちにそんな言葉まで口にして。



「せっかく用意してくれたみたいだし受け取るよ。ありがとう」

そう言うと彼女の広角が上がる。


どう考えても俺のしたことに見合ったお礼じゃないけど、彼女が喜ぶならそれでいいか。

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