カレンダーガール
「桜子先生」
ひとり病棟を歩いていると、病棟師長に声をかけられた。

「剛先生は外来ですから、一緒にお茶しません?」
「え?」

驚く私を促して、師長は休憩室へ。私もそれに続く。
中には数人の看護師が、コーヒーやお茶を飲んでいた。

「ここには食べたくても食べられない子供達もいるので、飲食は休憩室のみでお願いします」
言いながらコーヒーを差し出す師長。
「はい。分かりました」

小さな子供が食べたい物も食べられず病気と戦っているなんてちょっと切ないけれど、これが小児科の現実。
ここでやっていくと決めた以上、慣れなくちゃいけない。

その後、看護師ひとりひとりが自己紹介をし、みんな優しい笑顔を向けてくれる。
結局1時間ほど休憩室で過ごし、その間に代わる代わるスタッフが現れおかげでみんなに挨拶できた。

「桜子先生」
一通り顔合わせが終わって、二人きりになった休憩室で師長が私を呼ぶ。
「はい」
さっきよりも少し真剣な顔の師長に、私も口元を引き締めた。

「先生が色々大変だったのはここにいるみんなが知っています。いろんな人間がいるので、失礼な態度をとる者もいるかもしれません。でも、負けないでください」
おかわりのコーヒーを差し出しながら、向けられた言葉。

師長なりに精一杯気を使い、言葉を選び、それでも覚悟をして欲しいとの気持ちが伝ってきた。

「気を遣っていただきありがとうございます。でも、大丈夫です。自分の置かれている立場も、注目されているのも自覚しているつもりですから」
大丈夫、私だって覚悟はしている。
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