カレンダーガール
「帰った?」
処置室へ戻ると川上先生が聞いてきた。

先ほどの女性患者は川上先生がお気に入りで、いつも先生を指名する。
最近ではトラブルを避ける意味で、川上先生が女性の診察には入らないようにしているらしい。

「今日の分の薬だけ出して帰しました」
「そう。お疲れ様」
言いながら、川上先生がジーと私を見ている。

「何か?」
「いや、最初はどうなるかと思ったのに、ずいぶん成長したよね」

え?
きっと初めての当直を途中離脱したことを言われているのだろうと、顔が真っ赤になった。

「それに、あの明日鷹を怒らせるなんてすごいよ」
「やめてください。先生」

普段温厚で滅多に怒ることのない明日鷹先生を怒らせたことは、あっという間に院内に知れ渡った。
あれ以来どこに行っても、「ああ、森先生の」って言われてしまう。
恥ずかしいけれど、自業自得。
私自身も、社会人として未熟で医師としての自覚が足りない行動だったと反省している。

「あいつはいつも周りに気を遣ってしまう奴だから、怒りを相手に向けることは今までなかったからさ」
「すみません」
私は素直に頭を下げた。

「そんな顔するな。怒ってるわけじゃないから。ただ、明日鷹を怒らせるなんて珍しい人もいるなと思ってね」
ハハハと、笑っている。

随分明日鷹先生のことに詳しいなって思ったけれど、そう言えば川上先生は明日鷹先生の大学の同期だって聞いたのを思い出した。

「すみません。診察、お願いします」
看護師さんの声。
「「はい」」
私は川上先生とともに、診察室へ向かった。
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