カレンダーガール
その後は穏やかに時間が過ぎていき、日付も変わろうとする午前0時。
プルル、プルル。
ホットラインが鳴った。

「もしもし、救急外来です」
川上先生が電話を取った。

「30代女性。多発外傷。10分後着」
川上先生の声で、みんなが一斉に動き出す。


10分後。
運ばれてきたのは、旭君とお母さんだった。

泣き続ける旭君。
血だらけのお母さん。

「ひどい」
泣きそうな顔で、紗花が呟く。

「ルートとって。ご主人以外の家族に来てもらって」
川上先生が冷静に指示を出す。

お母さんは顔面血だらけで、腕もあらぬ方向に曲がっている。

「和泉先生。管理当直の先生呼んで、警察へ連絡」
「はい」
「鈴木先生。旭君をもう一度診察して。レントゲンを撮って」
「はい」
みんながテキパキと動く。

それから朝まで、警察が来たり児童相談所が入ったりバタバタとした時間が過ぎた。



明け方、急ぎの検査や処置が終わり病棟へ上がるお母さんが私を呼んだ。

「先生・・・」
「私が出過ぎたことをしたせいなら、ごめんなさい」
私は、包帯だらけの腕をとり、謝った。

私が余計なことを言わなければ、こんなことにはならなかったのかもしれないと、運ばれてきたお母さんと旭君を見た時から思っていた。

「いいえ。先生のおかげで、勇気が出ました。怪我しましたけど、大丈夫です。ありがとうございました」
ちょっと笑顔が見えて安心した。

「旭君の診察もしましたが、異常はありませんでした。安心して治療してください」

お母さんも旭君もつらい思いをしたけれど、きっともう大丈夫。
そんな気がしていた。

病棟へ上がるエレベーターを見送りながら、私は2人の幸せを祈った。
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