手を伸ばせば、瑠璃色の月
「そう!だから、あの夢占いが、」

でもすぐに気を取り直し、パチンと手を叩いてみせると。


「ああ!あの、幸せの前兆がどうのっていうあれね!...そうね、二回も泥棒の夢を見たんだから、何か良い事があるに違いないわ」


私の言わんとしている事が伝わったのか、美陽は一瞬にして顔をほころばせた。

彼女の柔らかな微笑みは、教室中に一瞬にして花を咲かせる。


「良かったじゃない、知世」


そのまま自然な動作でハイタッチを求められたから、

私は、迷うことなく左手を掲げた。

右手の手のひらの傷が彼女に見えるのを、避ける為に。



その後、私達が他愛のない話をしていると、

「おはよう!聞いてよ、昨日病院行って漫画読もうとしたらさ、最新巻が置いてなかったんだよね…。行っただけ損だったよ」

肩までの髪を乱雑に括った朔が、鼻息を荒くさせながら登校して来た。

漫画を読むのを相当楽しみにしていたのか、彼から放出されるオーラは落胆の色を含んでいて。


「ごきげんよう。漫画の一冊くらい自分で買ったらどうなの?そのくらいのお金はあるでしょう」

「そうだけどさ、それじゃ駄目なんだよ。漫画は、読む用と飾る用と保管用で三冊は買わないといけないから」

「え、何それ…」


皮肉の籠った台詞をぶつけた美陽に対し、何のダメージも食らっていない朔の言葉に驚いた私は素っ頓狂な声をあげて固まった。
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