マーメイド・セレナーデ
思考に割り込んできた声で我に帰る。



「え、ああすいません」

「では、こちらに」



手で導かれるようにあたしは歩き出す。
通路にもところどころに淡い橙のライトが点灯している。

ほんわりとあたたかい光はステージ上に照らされるライトとは違って温かい。


数メートル進むと座っている人たちの間の通路に入る。
近くに芸能人が座っているというだけで身が強張ってしまう。

だって、都さんが目指しているのは明らかに中央に伸びたステージのそばだもの。
あたしが見渡す限りそこにぽつんと2つ空いた席以外に空席はないように思える。


こんな人たちよりももっと前に座って見れるの。
これも、翔太が用意した席だと思うとどこか小恥ずかしい。

だって、彼女に席を案内されて進んでいると言うだけで少なくない視線を感じてる。


なんだか翔太が遠い人に思えた。


でも大丈夫、わかってるから。



『夢だったんだよ、俺の』
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