御曹司様はあなたをずっと見ていました。

病院でおばあちゃんの担当医から説明を受けた。

やはり、思った通りだった。
発作がかなりおばあちゃんの体力を奪っているとのこと。
次の発作が起きれば、体がもつかどうか保証は出来ないと言われたのだ。

目の前が真っ暗になった。
覚悟はしていたが、現実になるとやはり耐え難い衝撃だ。

おばあちゃんの病室に行くと、沢山の管がおばあちゃんの体と機械をつなげていた。
心臓の鼓動を表す機械音と、酸素マスクのシューシューという音だけが、静かな病室の中に響いていた。

しかし、そっとおばあちゃんを覗き込むと、顔は穏やかに優しい顔をしている。
苦しそうな表情では無かったことが、せめてもの救いだった。

すると、酸素マスクをして寝ているおばあちゃんが、寝言で何か言っているように口を開けた。
看護師さんに許可をもらってマスクを外してもらうと、小さく掠れた声が僅かに聞こえたのだ。

「…梨沙…おめでとう…ウェディングドレス…素敵ね…」

どうやら、私の結婚式の夢を見ているように思える。

おばあちゃんは、こんなにも私の花嫁姿が楽しみだったのだろうか。
なんだか涙が流れて来た。

(…おばあちゃんには、私の花嫁姿をみせたかったな…でも無理そうだよ…ごめんね…)



病院からの帰り道、ある言葉が私の頭の中をぐるぐると回っていた。
それは、先日高宮専務が言っていた、偽装結婚のことだ。
『返事を待っている』この言葉は本気なのだろうか。

嘘はよくないと分かってはいるが、おばあちゃんに花嫁姿を見せてあげたい…。


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