ずっと、好きなんだよ。
踵を返した、その時だった。



「バカこーざい」



聞き覚えのある声と台詞が耳を貫いた。


慌てて振り返るとそこにはやはり彼女がいた。




「森下...」


「久しぶりだね。何?今日は1人?」


「まぁ、な」



オレがそう言うと森下が一歩二歩と近づいてきて、ドンッと背中を叩いた。



「った...っ!何すんだよ?!」


「アンタがぼやっとしてるから叩いてやったのよ!アンタこんなとこで黄昏てる場合じゃないから!ほら、これ見て」



なぜかスマホを見せつけられる。


SNSのトーク画面をこんな易々と見せて良いものかと多少心配にはなるが、森下なら大丈夫だろう。


会話を追っていく。


情報が入って視界が鮮明になる。


...マジ、か。



「彼氏がバイトで来れなくなったって言われてあの子を誘ったらこれよ。振られっぱなしの由紀ちゃんちょ〜可哀想」


「自分で言うかよ、普通」


「あたしは言うの。ってか、こんなとこで油売ってる場合じゃないでしょ!あたしじゃなくてアンタが選ばれたんだから、も~さっさと行って。あの子かれこれ10年以上待ってんだから!」



森下が行けと行ってくれている。


つまり、そういうことか。


でも、念のため聞いておく。


アイツのセコムは、親以上に厄介な森下由紀だからな。



「あのさ、森下」


「なによ」


「今のオレは中途半端じゃないか?」



森下がふふんと鼻を鳴らす。


不敵な笑みを浮かべる。



「アンタさぁ...あん時より何倍も良い顔してる。きっとあの子も惚れ直すよ」


「つまり...」


「はあ、言わせる気?まぁ、あたしが変に煽っちゃったからしゃーないけど。...行っていいよ。ってか、行きなよ。今のアンタなら、大丈夫。きっと色々あって大事なもんも捨てたりしたんだろうけど、一番大事なもんは捨ててないでしょ?」



一番大事なもの。


それは...オレの心だ。


ありのままの、


オレの心。


オレの気持ち。


捨ててない。


失くさない。


迷わない。


そう、強く誓ったから。



「捨てるわけない。今度こそオレは...」


「あー、言わんくていい。本人に言ってやって。ほれ、さっさと行って行って。あたしはまた別の人当たるし。邪魔」


「分かったよ。けど...ありがとな、森下。オレに発破かけてくれて。お陰で今のオレがある」


「あぁ、も~キモいから!行け!当たって掴みとれ、バカこーざいっ!」


「おう」



森下由紀の許しと激励を受け、オレは駆け出した。


きっと、待ってる。


あの場所だと信じる。


3年前の涙を必ず今日笑顔に変える。


1秒でも早く着いて


1秒でも長く一緒にいよう。


今度こそ、


オレが...


幸せにする。


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