ずっと、好きなんだよ。
「はぁ...」


「あらあらどうしたの、奈和ちゃん」


「もしや、恋の悩み?」



休憩中に大きなため息をついたもんだから、パートのおば様方に心配されてしまった。



「あはは。そんなんじゃないので大丈夫です...」


「その顔は、大丈夫って顔じゃない」



頭上から声がして顔を上げると、案の定貴公子のように整った顔がそこにあった。



「はい、これ。差し入れ。皆さんも良ければどうぞ。甘いもの食べて午後も頑張りましょう」


「おお!さすが店長!」


「太っ腹~」


「はは。腹筋鍛えてるんでお腹は出てませんよ~」


「はははっ!」



どこからともなく沸き上がる声。


さすが店長だ。


いっつも物語の真ん中にいて


隅っこで息を潜めて暮らす虫けらのような私にも彩りを与えてくれる。


やっぱりこの人はただ者ではない。


そう思いながら頂いたシュークリームを頬張っていると、トントンと肩を叩かれた。



「どう?美味しい?」


「はい。とても。ご馳走様です」


「なら良かった。奈和ちゃんが笑ってくれると俺も嬉しいよ」



はは。


さらっとキラーフレーズを言ってのける。


学生時代はさぞかしモテたであろう。


ってか、これに似たことを私も言われたことある。


偽りではなかったと思うし、あの時の私が舞い上がってたんだから良かったのかもだけど、今はちっともキュンとしない。


私、フケたな。


由紀ちゃんに言われた言葉が今更ながら甦りじわじわと心を侵していっている中、彼は続ける。



「奈和ちゃん、ちょっと今日残れる?20分くらいで終わる話なんだけど」


「まぁ、はい。それなら...」


「じゃあ、よろしくね」



そして、ポンと頭に手を乗せ、さっと離すと忙しい彼は行ってしまった。



「やだぁ、なに今の?」


「公開告白?」


「そんなんじゃないです。いつものことです」



恐らく社員同士の業務連絡のために残り、


あのポンはキュンを狙ってしているのではない。


妹をいじる兄みたいなもんだ。


実際、店長には私より1つ下の妹がいるみたいだし。


妹に素っ気なくされてるからその役が私になってるだけ。


変に盛り上がるのは止めてほしい。


この世界には...


というより、私の周りには


そんな奇跡みたいな展開、


出逢い、


運命、


落ちてなんていないんだから。


少女漫画のヒロインみたいには


なれなかったんだから。

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