原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!
「ほら、ここにも付いてる」

「えっ、何がです……」

 そう言ってオスカーはロザリンドの唇に指を伸ばして、彼女が付けたままにしていたクリームを拭き取った。


 いつもの距離を取る義兄なら、本人に指摘するだけか、ハンカチで拭き取るだろう場面なのに、
彼は自分の指でロザリンドの唇を優しく拭い。

 信じられない事に、なんとそのまま!
 その指を舐めたのだ! 

 
 使って貰おうと出しかけた自分のハンカチを握りしめて、ロザリンドは真っ赤になり、その場に
へたりこみそうになった。 

 
 祭りの人混みの中での一瞬の出来事だ。
 ハンカチを渡されて拭いたりするのが面倒だったのかも知れない。
 それでも。


 今日のオスカーの様子はいつもと違って、ずっとロザリンドをドキドキさせて、混乱させている。



 侯爵家の馬車を進入可能ギリギリの位置で停めさせると。
 付き添ってきたロザリンドの侍女に
『後で迎えに来てくれたらいいから』と帰りの
時間を告げて、一緒に馬車を降りようとした彼女をウチに戻した。

 そしてロザリンドを下ろす為に差し出したその
左手は離されることなく、彼女の右手はぎゅっと握られたままだ。
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