栞の恋(リメイク版)
どうかしてる。

まだ、たった数時間しか一緒の時間を過ごしていないのに、こんなにも離れがたいなんて。

『…まいったな』

ふわりと落ちてきた彼の声音と同時に、私の額に触れたのは、晴樹さんの柔らかな前髪。

気付けば、目の前に晴樹さんのコートの胸元があり、互いの手を重ねあったまま、向かい合っていた。

『…そんなこと言われたら、感情が抑えられなくなる』

困ったような、それでいて嬉しそうな声が降ってくる。

触れていた片方の手が私の背に回り、トンと押されると、そのまま易々と晴樹さんに腕に包まれる。

瞬間、この上ない幸福感と安心感が押し寄せ、また泣きそうになった。

出逢って直ぐの男性に、こんな風に抱きしめられても、何の不安も怖さもないなんて、もうこれは”運命”だと、認めざる負えない。

『もしかしたら、僕らは、前世で1つだったのかもしれないな』

冗談のような軽い口調で、そう口にした晴樹さんの言葉も、ストンと腑に落ちてしまう。

その声に導かれるように、ゆっくりと顔を上げれば、細くそれでいてしっかりとした親指で、涙のあふれ出た目元を、そっと拭われる。

私を見つめるその眼も、潤いが帯びて見えるのは、気のせいか。

『大丈夫。心配しなくとも、僕はもうずっと君のそばにいる』

そっと髪にキスを落とされ、まるで宝物のように…それでいて、もう離すまいと強く抱きしめられる。

人のぬくもりってこんなに温かいものだったっけ?

寒さなど微塵も感じないほど、心も身体も温かく満たされるよう。
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