かげろうの月
「奥さんが離婚してくれなかったら既成事実を作って、2人で逃げよう!と言ったけど……」

なんて陳腐な言葉なんだろうと思ったが、私の知らない所でこんな言葉を吐いている夫に怒りが込み上げてきた。
私が返事に困っていると、浮気相手の女は更に言った。

「奥さんとは子供が出来ちゃったから、仕方なく結婚したから、もう奥さんとはセックスはしてないと言ってたけど、どうなの?」

お互い初めて話す相手なのに、何でこんなに強気でいられるのだろうか…。どうなの?って何よ!
あんたにそんなこと答える必要なんてどこにもない。答えたくもない。
不快な思いで逆に質問で返した。

「何でそんなこと聞くの?」

「橘さんは、私にも離婚して一緒になろうと言ってたし、そうしようと私も思っていた。橘さんは最近家に帰っている?」

この浮気相手の女は人妻で、自分も離婚して尚哉と結婚するというところまで話しは決まっていたというのか……。
 『家に帰っている?』なんて何で聞くのだろう。ちょっと女の気持ちを探るように答えた。

「たまに帰ってくる」

「それって何時頃なの?」

「覚えていない」と私。

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