聖女、君子じゃございません
 国王陛下を含め、室内はなんとも言えない沈黙に包まれていた。皆が『アーシュラが正しいかもしれない』と言う雰囲気を醸し出している。
 けれど、彼女の本性を知る俺には不安しかなかった。


(いや、本当にアーシュラ様がそのおつもりならば悪くはない。聖女が各地を回るとなれば、民もきっと喜ぶだろう。だが……だが!)


 その時、アーシュラ様はチラリと俺を見上げた。彼女の美しい瞳が綺麗な半月型に歪められ、口元には下碑た笑いを浮かべている。


「~~~~~~! あっ……」

「ローランよ」


 口を開くより先に、陛下が俺の名前を呼んだ。そして俺は瞬時に悟った。陛下がこういう表情をしている時は、もう決断をなさった後だ。俺がなにを言ったところで、覆ることは無い。


「頼む」

「――――――御意」


 かくして俺は、このトンデモ聖女の御守を継続することが決まってしまったのだった。
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