聖女、君子じゃございません
「アーシュラ様の方こそ、童顔じゃありませんか! とても十七歳には見えませんよ」

「え? 本当ですか? 初めて言われた気がします」


 俺とは対照的に、アーシュラ様はなんだか嬉しそうだ。どうやら彼女に嫌味は通じないらしい。
 コホンと咳ばらいをしつつ、俺は居住まいを正した。


「ところでアーシュラ様、あなた、本当に国内を旅して回る気がおありですか?」

「…………えぇ?」


 俺の問いかけに、アーシュラ様はそっと明後日の方向を向く。やっぱりか、と思いつつ、俺は盛大なため息を吐いた。


「言っておきますけど、逃げようったって無理ですよ? 王宮への報告は毎日欠かさず行いますし。こっそり家に逃げ帰って、これまで通りに暮らすなんてことはまかり通りません」

「――――――――――わかってるわよぅ」


 そう口にしつつ、アーシュラ様はぷぅっと頬を膨らませる。


(いや、絶対分かってない)


 腹立たしい――――そう思っている筈なのに、妙に可愛く見えるのが癪だ。俺は思わずアーシュラ様の両頬を軽く摘まんだ。


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