聖女、君子じゃございません
***


「――――土産話が楽しみだ」

「はい。ありがとうございます」


 俺が回想を終えたその時、殿下とアーシュラ様の別れの挨拶が済んだらしい。アーシュラ様がそそくさと俺の後ろに移動した。


(毎回俺を盾にするんだもんなぁ……)


 殿下はパーソナルスペースが近い。距離を置くためには、ガタイの良い俺を挟んだ方が楽なのだろう。チラリとアーシュラ様を見れば、『ごめんごめん』と囁きつつ、ペロリと舌を出していた。


「ローラン」


 その時、殿下が俺を呼んだ。その表情は固く、どこか牽制するような色を帯びている。


「ちゃんとアーシュラを――――聖女殿をお守りしろよ」


 殿下は敢えて『聖女』の部分を強調する。その言葉の裏にある意図は明らかだ。
 つまり殿下は、俺がアーシュラ様に手を出すことを危惧しているらしい。


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