聖女、君子じゃございません
「これを」


 店主に代金を手渡すと、アーシュラ様は泣きそうな表情で俺を見上げた。


「……良いのっ⁉」


 頬が赤い。唇がぷるぷる震えている。あまりにも可愛いらしいその表情に、今すぐ抱きしめたいとそう思った。その唇に口付けて、愛を囁きたい。そんな馬鹿な衝動を抑えながら、俺は必死に微笑む。


「まさか、これも売り払おうなんて思ってないでしょうね?」

「ううん! 絶対売らない! 絶対絶対、一生大事にするっ」


 アーシュラ様はそう言って、勢いよく俺に抱き付いた。


(……っ! 人の気も知らないで……!)


 俺の胸にアーシュラ様が顔を埋めている。ふわりと花のような香りが漂う。背中を、これでもかというぐらいにキツく抱き締められている。


(本当に仕方のない人だ)


 不可抗力だからと言い訳して、俺はアーシュラ様を抱き返した。身体が、胸が、熱くて堪らない。これ以上、自分の気持ちに気づかない振りなんて出来そうになかった。
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