聖女、君子じゃございません
「まだ分からないのですか? 何もかもが手遅れなのですよ。
わたくしは絶対帰りません! ……っていうか、帰るってワードがそもそも間違いなんです。だって、わたくしの帰る場所は、ローラン様のいるこの国ですもの! 元王太子のあなたより、ローラン様の方が何倍も、何十倍も素敵ですっ! わたくしの自慢の守護騎士……未来の旦那様なんですから!」


 アーシュラ様はそう言って、俺のことを力一杯抱き締めた。その途端、俺の心臓が変な音を立てて鳴り響いた。


(まだ誰にも報告していないのに……!)


 広間の皆の視線が突き刺さる。相当痛い。けれどアーシュラ様は俺のことを放さなかった。俺の退路も完全に断ち切る腹積もりらしい。やられた。アーシュラ様の作戦勝ちだ。


「ウルスラ……」


 最後の一撃が余程効いたらしい。アーシュラ様の元婚約者は、フラフラとバランスを崩し、そのまま地べたに突っ伏したのだった。
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