キスのその後に

6.片桐蓮

片桐(かたぎり)先生、好きです。」

篠田美咲(しのだみさき)は、真っ直ぐに(れん)を見つめてくる。

眼鏡の奥の目が潤んでいる。

「…は?」
蓮は返す言葉が見つからない。

1時間程前、科学の担当である蓮は明日の授業の準備のために、いつものように放課後の理科室に来た。

実験道具やプリントをまとめていると、突然、篠田が理科室に入ってきた。

篠田は蓮が副担任を務める3年2組の生徒である。

「先生、進路について相談したいんですけど…。」
篠田は最初、遠慮がちに言った。

「え、それなら担任の小川先生の方が…。まだ職員室にいらしたと思うけど。」
蓮は答えた。

正直、担任を差し置いて生徒と関わることは避けたい。しかも小川先生は50歳のベテランだ。睨まれるようなことはしたくない。

「片桐先生に聞いてほしいんです。」
篠田が少し強い口調で言う。

蓮は少し違和感を感じたが、篠田の眼差しに負けた。
「終わるまで適当に待ってて。」
そう言って試験管を洗い始めた。

準備をしている間、篠田の視線が自分に向けられているのを感じていた。蓮の動きに合わせて、篠田の視線も動く。

篠田の方を見ることはできない。
変な汗が出てくる。

「よし。」
最後列の机に実験道具を置いて、蓮は振り返った。
すぐ後ろに篠田が立っていた。

「…なに。」
蓮は後ずさりをした。

「先生。」
「片桐先生、好きです。」
篠田が真っ直ぐに見つめてくる。

「…は?」
蓮は言葉に詰まった。

「先生も私のこと好きですよね?」

…え?

「だって先生、私のことずっと見てるじゃないですか。」
篠田がにっこりと笑う。

「…。」
蓮は頭が真っ白になった。

気づかれてたのか。
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