キスのその後に
香織は、ウエディングプランナーとして働いて15年になる。

15年間で、果たして何組の結婚式を仕切ってきたのだろう。
何人の人間と関わってきたのだろう。

その全ての結婚式にドラマがあり、そこに関わる全ての人に様々な事情がある。

結婚式とは、魑魅魍魎の集まりだと香織は思っている。

皆、綺麗に着飾って、表面上は楽しそうで幸せそうに振る舞っている。しかし実際のところ、本心は分からない。

私生活も分からない。

今日の新郎新婦だってそうだ。絶対何かあるに違いなかった。

それでも式を滞りなく進め、幸せの場を演出するのが香織の仕事だ。

それでいい。
人々の細かい事情なんて、どうでもいい。

結婚式を完璧に終わらせた後の達成感を味わうためだけに、香織はこの仕事をしているのだから。

さらに言うなら、その後のビールのためだ。

ふふっと、笑みがこぼれた。

「何かおかしいですか?」
気がつくと翔太が戻ってきていた。
「顔がニヤけてますよ。」

「そぉ?」
香織は2杯目のビールも飲み干した。

何だろう。
今日はやたらビールがおいしく感じる。

…飲みすぎないようにしないと。

「あのね、今日の夫婦の結婚生活はどれくらい続くのかなと思って。」
香織は空いたグラスを差し出した。

「またまた。香織さんは残酷なこと言いますよね。」
翔太が苦笑いをしながらグラスを受け取る。
「ビールでいいですか?」

香織は、うん、と頷いた。

だってそうでしょ。

結婚式であんなに幸せそうにしてた2人だって、別れることもザラにある。

今この瞬間にも、離婚届を前にしていがみ合っている夫婦が、この世にはきっと何組もいる。

…私だってそうだったし。
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