その溺愛は後出し不可です!!
時刻は夜の九時。
遅めの打ち合わせを終え自分のデスクに戻ってきた果歩は、何とも言えない居心地の悪さを感じていた。
果たして声を掛けるべきか。
無視を決めこもうにも社長と秘書のデスクはL字に並んでおり、この至近距離であの視線から逃れるのは難しい。
「あの……何か御用でしょうか?」
仕方なく控えめに尋ねると上司でもあり株式会社REALNavigatorの社長でもある廣永昴はゆっくりと椅子から立ち上がった。
うっとりするほど長くて綺麗な指先がおもむろに果歩の顎を持ち上げていく。
全くの不意打ちに心臓がドキンと大きく跳ね上がった。
「やっぱり……。顔色が悪いぞ」
「……そ、そうですか!?」
果歩はドギマギしながらシラを切った。本当は嘘だ。昨夜は夜遅くまで資料を読んでいたせいでかなりの寝不足だった。
果歩は昴の鋭い観察眼を心から恨んだ。
表に出さないように細心の注意を払っていたのに、結局無駄な努力に終わってしまった。
こうもあっさり見抜かれてしまっては、嬉しいような、悔しいような複雑な気持ちになってくる。
「残りの仕事は明日でいい。今日はもう帰っていい」
「大丈夫です。きちんと予定通り終わらせますから」
心配をかけまいとわざと明るく振る舞う意固地な果歩を見かねて昴は提案した。