その溺愛は後出し不可です!!
「風邪引くよ」
髪からポタポタと水が滴り落ちて果歩の服を濡らしていく。服を着る時間を惜しんだのか、見事な肉体美を誇る上半身は裸のままだ。
果歩は昴が拭き残した水滴をタオルで拭いてやった。
今からこの人に抱かれると思うと、身体が火照っていく。触りたい。力強く抱きしめて欲しい。
無防備に曝け出された厚い胸板と割れた腹筋は果歩にとって目に毒だった。半裸の昴の身体をタオル越しに撫でて冷静でいられるほど経験豊富ではなかった。
「拭き終わったよ」
果歩はタオルをつっけんどんに返すと昴に背を向けた。
「なあ、まだ果歩の口からちゃんと聞いてないけど、俺と結婚してくれるよな?」
「私は……」
「俺は果歩を手放すつもりはない」
昴は果歩を抱き寄せると顎を掬いあげ強引に自分の方に向けさせた。情熱を孕んだ瞳が近づいてきて、目を伏せる。
「んっ……」
口腔をまさぐる昴の舌の動きに翻弄されながら、果歩はひたすら喜びを感じていた。欲しがってもらえるのは素直に嬉しい。好きな人からの誘惑にはどうしたって抗えない。
「もうベッドに連れて行ってもいいか?」
昴は濡れた声で果歩を求め強請った。
うんと頷きかけて、ふと何かが頭をよぎる。
もし、あの時果歩がジャンケンに勝っていたら、昴はどうしただろう。
結婚はないものとして扱われた?
昴にとって結婚は運で決められるような簡単なものなの?
「果歩?」
「ごめん、昴くん。私、やっぱり帰るね……」
果歩は昴を押し返すと、リビングに向かい置いてあったバッグを引っ掴んだ。
「果歩!!待てよ!!」
昴は声を荒らげ、帰ろうとする果歩の腕を引いた。
一歩踏み出す勇気の持てない臆病な自分を許して欲しい。
ジャンケンが繋いだか細い糸のような縁を信じて身を任せることなんてできない。
「ごめんなさい。私やっぱり昴くんとは仕事仲間でいたい……」