円満夫婦ではなかったので
「……私には離婚を仕向けるような発言をしてたけどね」

「嘘を言うな!」

「嘘じゃないよ。だって離婚して欲しくないなら、どうしてわざわざ私に会いに来たの?」

「そ、それは……」

「離婚しないで欲しいと思うなら、やましい関係ではないことを証明するのが自然じゃない? でも彼女はむしろ挑発的な態度で私に嫌味を言うくらいだった」

日記に書いてあったことから状況を読み取って話している。つまりは想像なのだが、瑞記と話しているうちにそれが現実に起こった、自身の記憶のような気がしてくる。

そんな園香の態度を目の当たりにした瑞記は、本当に記憶が戻ったのだと信じたようだった。

口惜しそうに唇を噛み、それから怒りの眼差しを園香に向ける。

「希咲が挑戦的なのは怒っていたからだ! だって本当にその頃の俺たちはやましい関係じゃなかったんだからな。勘違いで責められたら怒るのは当たり前だろう」

(その頃の俺たちは?)

園香はすっと目を細めた。

瑞記が気付いているかは分からないが、彼は現在の不倫を自白したようなものだ。

(でも少なくとも二月の時点では不倫関係じゃなかったということ?)

「確かに家には帰らなかったけど、それは園香がいつも不機嫌で居心地が悪かっただからだ。それに仕事に対して理解がなかった。家にいるのが嫌だったんだよ! それだけなのに希咲のせいにするなよ!」

瑞記は不倫の自白に気付いていないのか強気だ。

園香は小さく息を吐いた。

「仮にそのときやましいことが無かったとしても、今は不倫してるってことね?」

「は……何言って」

「自分で言ったんじゃない。“その頃の俺たちはやましい関係じゃなかったんだ”って」

瑞記の顔が驚愕に染まる。ようやく自身の失態に気付いたようだった。

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