円満夫婦ではなかったので
「そう言えば、私、経理部から広報部に異動してたんだね」
「……ああ。すぐに退職したが。そのことも日記に書いて有ったのか?」
「ううん。日記を付け始めたのは、瑞記と一緒に住んでからだから。異動については名木沢さんに聞いたの」
彬人が怪訝な表情になる。
「彼女と連絡を取っているのか?」
「あ、違う。彼女の夫の名木沢さんのこと」
「夫って名木沢清隆だよな? 彼に不倫の件を話したのか?」
「事故に遭う前に私から電話していたみたい。でもそれきりになっていたから気になったようで、彼から訪ねてきたの」
彬人は困惑した表情で、園香の話に耳を傾けている。
その様子から事故の日に、名木沢清隆と会うことは知らなかったのだと分かる。
「彼は突然、あなたの奥さんが不倫していますって言ってきた私を怪しく思って、私について調査したみたい。それで私がソラオカ家具店広報部所属だって知っていたの。でも私は異動した覚えなんかなかったから驚いちゃった」
園香は中身が無くなったカップを、ソーサーにそっと戻した。