円満夫婦ではなかったので


『他人の不倫を言いふらす趣味はない』

『そうですよね。彬人君、口が堅そうだもの』

『そのなれなれしい呼び方は深いだからやめろ』

彬人がぎろりと睨みながら言う。

『ごめんなさい、つい癖で』

希咲はショックを受けたように、目を伏せる。すると黙ってやり取りを聞いていた中山が割り込んできた。

『彬人、呼び方くらいでそんなきつい言い方をしなくてもいいだろ?』

『中山は口出ししないでくれ』

放っておいたら、言い争いを初めてしまいそうだ。希咲は苦笑いをしながら、ふたりに割ってはいる。

『中山君私は大丈夫だよ。彬人君も、話を脱線させないでね。それでお願いの続きなんだけど……』

そのとき、中山のスマートフォンから着信音が鳴った。

『あ……』

画面を確認した中山の顔色が変わる。彼は希咲に断り席を外す。しばらくと慌てた様子で戻ってきた。

『ごめん。すぐに帰らないといけなくなった。妻が怒っていて』

『そうなんだ。ここは大丈夫だから帰った方がいいよ』

希咲はにこりと笑顔で言った。彬人は怪訝そうに中山が去っていく姿を見ている。

ふたりきりになると、彬人は深いため息を吐いた。この状況が苦痛でも言いたげだ。

< 170 / 170 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:136

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

失恋したので復讐します
  • 書籍化作品

総文字数/108,494

恋愛(その他)64ページ

表紙を見る
無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
  • 書籍化作品
表紙を見る
いきなり三つ子パパになったのに、エリート外交官は溺愛も抜かりない!
  • 書籍化作品
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop