円満夫婦ではなかったので
裏切り
「瑞記ありがとう」

急ぎ希咲の泊まる部屋に行くと、彼女はほっとした様子で瑞記に寄り添った。

心細さを感じていたのだろう。

(よほど怖かったんだろうな)

彼女にこんな思いをさせるなんて許せないと、瑞記は隣の部屋のドアを睨む。

今は希咲が訴えていたような物音はせず静かなものだが、それは瑞記の存在に気付いているからかもしれない。そうではないとしても不安がある以上彼女をひとり残す訳にはいかない。

「希咲、僕の部屋に行こう。荷物はそれだけで大丈夫?」

「うん、とりあえずは。残りは明日の朝でいいわ」

「そうか。じゃあ行こう」

瑞記は希咲の肩を支えてエレベーターに向かう。待たずに乗り込み二フロア下に降りた。

「ごめん、ちょっと散らかっているんだけど」

希先を部屋に入れてから、慌ててベッドの上やテーブルに置きっぱなしにしてある服やペットボトルを片付ける。
そんな瑞記を見て希咲はくすりと笑った。

「そのままでいいよ? 私、全然気にしないもの」

「そうか? でも希咲は綺麗好きだろう?」

オフィスの彼女の机はいつでも綺麗に整頓されている。

瑞記は片付けが苦手だが、オフィスは希咲に倣って物を散らかさないように気をつけている。

「本当に大丈夫だって」

希咲はにこりと微笑み、羽織っていた薄手のコートを脱いだ。彼女がレインコート代わりにしている紺色のそれが、ふわりと床の上に落ちた。

「ほら、私もプライベートでは結構適当なんだよ?」

「あ……」

コートに向けていた視線を上げた瑞記は思わず息を呑んだ。


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