ツンデレ副社長は、あの子が気になって仕方ない
15. 織江side 義妹、襲来


「ずっとずぅううっと、ホントにお会いしたいと思ってたんですぅ!」

会議室に現れた貴志さんに纏わりつき、場所も状況も弁えず黄色い歓声を上げる義妹の姿にゾッとした。

「き、キララっ失礼よ!」
奥のパイプ椅子から立ち上がって窘めるが、彼女が聞く耳をもつはずもなかった。

「ウザッ。何よ、もうここはあたしの職場になったんだから、お姉ちゃんは用済みでしょ。さっさと帰れば?」

ウザい、を連発しながらキララが私を振り返ったところで、訝し気な貴志さんと目が合う。

「っ……」

“昨夜の告白は本気だし、諦めるつもりはない。出張から帰ったら、もう一度話し合おう”

メッセージを思い出して、きゅ、っと胸が苦しくなった。

ごめんなさい、貴志さん。
ごめんなさい……私はもう、あなたの傍にいられないんです。

大事な何かがさらさらと手の中から零れ落ちていくような喪失感に襲われ、きつく唇を引き結んだ。

「“あたしの職場”?」

後ろ手にドアを閉め、高橋さんも含めて外の視線を遮った貴志さんが、わざとなのかどうかキララを避けるようにして室内に入ってくる。

「一体何がどうなってるんだ?」

当然の疑問だ。
私は覚悟を決めて前に進み出ると、重たい口を開いた。



「突然失礼いたしました。彼女は私の妹で、山内キララと申します。私の方が一身上の都合により業務を続けることができなくなりまして、代わりに彼女が業務を担当させていただくことになりました。なにとぞご理解のほど、よろしくお願いします」

「は? 何を言ってるんだ? 何も聞いてないぞそんな話」

彼の戸惑いが手に取るように伝わってきて、土下座して謝りたくなる。
私だって、こんな風に突然、お世話になった会社を去るような真似したくなかった。だけど……


――だって、お姉ちゃんに務まるはずないもんね、リーズニッポンの副社長夫人なんてさ。

パーティーの翌朝、ホテルで受け取ったキララからの電話が悪夢の序章だった。

数日後、呼び出されて実家を訪れた私に告げられたのは、貴志さんとのお見合いの中止。キララが代わりに引き受けるという。

信じられないことに、彼女はすでに佐々木君との婚約を破棄していた。
理由は、彼が実家のブランド・アウローラの業績悪化を隠していた、ということだけど……

どうやらチャリティーパーティーで貴志さんに一目惚れしたキララが、私と彼との見合い話をお継母さんから聞き、たった数日のうちに婚約破棄と自分の見合いとをごり押ししたらしい。
彼女によると、私は色仕掛けで貴志さんに近づいた上、“週刊文冬(マスコミ)まで使って交際を既成事実化しようとした”魔女で、貴志さんには相応しくないそうだ。
もともとはお父さんの方から提案してきたお見合いなのだが、キララの中ではどうでもいいことらしい。

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