雨宮課長に甘えたい【2022.12.3番外編完結】
課長が「ううん」と頭を左右に振る。

「最高に嬉しい。もう一回呼んで」

甘えるようにこっちを見る課長が何だか愛しい。

「拓海さん」
「なんか元気出た」
「拓海さん、また遊びに来て。今度は私が何か料理しますから」
「奈々ちゃんの手料理食べさせてくれるの?」
「拓海さんみたいに上手じゃないけど、でも、ちょっとは作れます」
「何が作れるの?」
「うーんと、オムライスと、カレーライスと、あと焼きそばが作れます」
「いいね。楽しみだ」

拓海さんが嬉しそうに笑ってくれる。
拓海さんを笑顔に出来て嬉しい。

拓海さんを駅まで送ろうと思ったけど、玄関でいいよと言われた。俺が心配になるから、ドア閉めたらちゃんと鍵かけてと言われて、その通りにした。

ドアの向こうでエレベーターに向かって歩く拓海さんの靴音がする。
拓海さんの気配を少しでも感じたくて、ドアに耳をあてて聴いていた。

靴音が消えると、寂しさに襲われる。

もう少しでお泊り決定だったのにな……。

深夜に拓海さんを呼び出す佐伯リカコが妬ましい。
不倫しているのは向こうなのに、まるで私の方が不倫しているみたい。

佐伯リカコなんか大嫌い。

……とは完全に言えない所が辛い。

優真君の話を聞いて以来、佐伯リカコを嫌いになれなくなった。

キラキラとした美しい笑顔の下に幼い子どもを亡くした母親の顔があると思ったら応援したくなるぐらい。

だから、不倫スキャンダルなんかで彼女が消えるのは私も嫌だ。
でも、拓海さんが利用されるのも嫌だ。

もうため息しか出てこない状態。

ベランダに出るとひんやりとした夜風に包まれて、気持ちいい。
群青色の空に浮かぶ白い三日月が可愛かった。

悩むのよそう。
いっぱい拓海さんに抱きしめてもらったんだもの。

今夜は拓海さんの夢を見よう。
どうか甘い甘い夢が見られますように。
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