雨乞いの町
にわかに廊下が賑やかになる。
ぱたぱたと走り回る足音や、女たちの笑い声で騒がしい。

勢いよく襖を開けて、雪乃が戻ってきた。色鮮やかな着物を抱えている。

「みんな楽しそうね。」 
琴音が言うと、雪乃は眉をひそめた。
「他の姉さまのお付きたちが準備に走り回っているのです。階段の下では着物の取り合いが始まって、女将さんが皆を叱っていました。」

雪乃が着物を広げた。
「さぁ、お召し物を。」

琴音は着ていた浴衣を脱いで、横に置いた。

「琴音さんのお世話をさせていただけて、私は幸せです。」
雪乃が、琴音の肩に着物をかけながら言う。
「琴音さんのお相手は上客ばかりですし。この奥の間だって、琴音さんのお付きをしていなければ入ることすら許されませんから。」

「全て真太郎(しんたろう)さまのおかげよ。あの方が私を見初めてくださったから。」
琴音は、着物の袖に腕を通した。
「この着物、素敵ね。」

「女将さんが、琴音さんのために仕立てられた物だそうですよ。今や琴音さんは、この結城屋(ゆうきや)になくてはならないお方ですから。」
雪乃は帯を結びながら言った。

「私も琴音さんみたいになれるといいのですが。」

「雪乃なら大丈夫よ。あなたはかわいらしいし、気が利くじゃない。」
琴音が言うと、雪乃は顔を赤らめて嬉しそうに微笑んだ。

遠くから、太鼓や笛の音が聞こえる。
外を見ると、雨の向こう側にいくつもの光が見える。

船が来たのだ。

男たちを乗せて。
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