GIFT
僕は渋々部屋を出て、廊下に置いてある子機を手に取った。

『もしもし、紺野です』

『瑛ちゃんかい?喜美子おばちゃんだけど、お母さんいる?』

『買い物に出掛けちゃったけど、何か用?』

喜美子おばちゃんは、母さんの5歳上のお姉さんで、まさおばあちゃんと一緒に住んでいた。

『まさおばあちゃんが倒れて救急車で病院に運ばれたんだよ』

『えっ‥まさおばあちゃんが…‥』

『あまり状態が良くないんだ。直ぐにお母さんに連絡してもらっていいかい?』

『わかりました。直ぐに電話します』

電話を切り部屋に戻ろうとすると、突然意識が朦朧としてきた。

なんだこれ…

立ってられない…

そしてフラつきながらベッドに倒れ込んだ。

ハッ!?

あれっ?

僕はどうしていたんだ?

確か電話をしていて、それから部屋に戻ろうとしたら…

そうだ、まさおばあちゃんが倒れたんだった。

時計を見ると時刻は18時15分を指していた。

1時間近く経っていた。

僕は慌てて母さんのスマホに電話をして、まさおばあちゃんが倒れた事を伝えた。

それから1時間くらいで両親は家に戻って来た。

「これから直ぐに岐阜に向かう。瑛太はどうする?」

「僕も行く。連れてって」

「わかった。早く支度しろ」

父さんは帰ってくるなりそう言った。

「私も連れて行って下さい」

突然何を言い出すかと思えば、葵は父さんに頭を下げてお願いしていた。

「葵ちゃん…私達は構わないけど、お家の人が心配するんじゃない?」

僕の彼女である葵を自分の娘のように接してくれていた母さんが心配そうな顔でそう言った。

「大丈夫です。美咲ちゃんには、言ってありますから」

言ってある?

こうなる事がわかっていたのか…。

それで、さっきあんなにソワソワしていたんだ…。

「そうなの?一応おばさんからも電話しとくわね」

「すいません。ありがとうございます」

部屋に戻ると、服を着替えて荷物を鞄の中に押し込んだ。

「わかってたの?」

「えぇ…」

「言ってくれてれば母さん達だって、出掛けないでもっと早く出発できたのに…」

「ごめんなさい」

「別に謝らなくてもいいけど…」

僕は何を葵にあたっているんだ。

葵は何も悪くないのに。

まさおばあちゃんの事が心配で、葵を責めてしまっていた。

謝らなきゃいけないのに言えないまま車に乗り込み、車は岐阜に向け出発した。

父さんの車はワゴン車で僕らは1番後ろの席に座った為、父さんと母さんの声は聞き取り難かった。

それでも父さんと母さんが、岐阜への経路や到着時間、それに…まさおばあちゃんに、もしもの事があった時の話をしているのはわかった。

そんな中…僕はスマホをいじり、葵は外の景色を只眺めていた。

無言のまま時は流れた。

そして車を走らせて15分くらい経った頃、高速道路の標識が見えてきた。
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