GIFT
気付くと遠藤さんに抱きしめられていた。

とても強く…そして優しく。

今までに感じた事のない不思議な感覚だった。

でも何だか懐かしい匂いがした。

「葵ちゃんの代わりはなれないけど、2人の傍でずっと支えて行く。何があっても私が必ず守って行くから…」

「どうしてそこまで?いくら葵に頼まれたからって、遠藤さんの人生だってあるじゃないですか?」

「命の恩人だから。それに大切な人だから…」

「葵がですか?」

「えぇ、まぁ…」

遠藤さんは僕の耳元で曖昧な言い方で答えた。

「例えそうだとしても、僕たちと一緒にいたら幸せになんてなれませんよ。遠藤さんには遠藤さんの幸せがあるじゃないですか…」

「決めたの。誰が何と言おうと変えるつもりはないから」

「絶対ですか?」

「絶対にです。だから諦めて私の気持ちを受け入れて」

「そうですか…。僕らの為に…本当にありがとうございます。うぅぅぅ……」

そして遠藤さんは、胸の中で僕の気が済むまで泣かせてくれた。

何も言わず、僕の深い悲しみと絶望を受け止めてくれた。

僕を抱きしめる遠藤さんの胸の中は、この上なく居心地が良く、心が穏やかになるのを感じた。

そして、額からの出血のせいか、次第に意識が薄れてまぶたが重くなってきた。



コツ…コツ…コツ…‥

目を閉じていても誰かが、こちらに向かって歩いて来ているのがわかった。

「お姉ちゃん…逝っちゃったんだね」

可愛らしい女の子の声だった。

「えぇ…」

「私は命を救ってもらっといて、お姉ちゃんには何もしてあげる事が出来なかった」

「それは、私も同じ…」

「だからこそ、お姉ちゃんの代わりに私がやらなきゃいけない事は沢山あると思うの…」

薄れゆく意識の中で聞こえてきた、遠藤さんと聞き覚えのない声の主との会話だった。
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