GIFT
「佐藤さん…」

仲村は、誰もいない倉庫の前まで来ると、葵さんの名前を呼んでいた。

僕はとっさに物陰に隠れた。

「仲村さん…呼び出しちゃって、ごめんなさい」

葵さんが、辺りを気にしながら倉庫の陰から姿を現した。

「うぅん…私は大丈夫だよ。それより話って何?」

「私が前にメールで言った事覚えてますか?」

「“事故には気を付けて”って言う話だよね?」

「えぇ…。もう一度言うから聞いて下さい。交差点で誰かを助けようなんて絶対にしないで下さい」

「私の身に一体何が起こるっていうの?」

仲村は心配そうな顔で聞いていた。

「私は仲村さんとずっと友達でいたいんです。生きていて欲しいんです」

葵さんが、かなり言葉を選んで話しているのはわかった。

「私…死ぬの?」

「そんな事絶対にないです。でも私の言う事は絶対に守って下さい」

「わかった。でも…本当に私は交差点で誰かを助けようとするの?」

「はい、それが全ての原因なんです」

2人の会話を聞いていると、仲村は葵さんの能力を知っているように聞こえる。

「その人は私の知ってる人なの?」

「どうしてそう思うんですか?」

「だって命懸けで助けようとするんでしょ?」

「そうだけど…」

「教えてっ」

仲村は葵さんの両腕を掴み“ジッ”と見つめていた。

「わかりました」

すると葵さんは仲村の耳元に顔を近付けると、何かを耳打ちした。

「・・・・・。そうじゃないかと思ってた。それと、もう1つ聞いてもいい?」

「はい…」

「それっていつなの?」

そして再び葵さんは仲村に耳打ちしていた。

「・・・・・」

仲村は後ろに振り返ると、部活のジャージの裾を捲り上げて顔に押しあてていた。

泣いているようだった。

「何も心配する事なんてありません。私の言う通りにしてくれさえすれば…」

「うっ‥うん…」

2人の会話からは重要な事は聞き取れなかった。

それから僕は、教室に戻ると荷物を鞄に詰めて帰ろうとしていた。

「瑛太、ちょっと待ってくれよっ」

遠くからバカでかい声で僕を呼んでいる奴がいた。

「何だよ?」

「たまには一緒に帰ろうぜぇ」

千葉が肩に腕を回してきたので、直ぐに振り払った。

「嫌だねっ」

それだけ言うと、千葉をその場に残して歩き出した。

「そういう訳にはいかないんだよ」

「何でだよ?」
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