離婚前提から 始まる恋
「このコーヒー、会社で兄貴にも出しているんだろ?」
「ええ」

一度試しに尊人さんに出したら、「美味しい」って言ってもらって最近では定番化している。

「俺も会社で飲もうかなあ」
「いいけれど、里佳子さんが嫌がるんじゃないかしら」

コーヒーを飲む度に豆を挽くのは手間だし、面倒だと感じる人も少なくないと思う。
偏見かもしれないけれど、里佳子さんがそういうことを楽しむタイプには見えない。

「ずるいよなあ兄貴ばっかり」
「え?」
「イヤ、何でもない」

里佳子さんを秘書に望んだのは勇人自身だったと聞いた。
それは仕事の能力を買ってのことだろうと周囲には受け取られていて、細やかな気づかいのできる秘書よりも実務能力にたけた里佳子さんを選んだ勇人は成果主義の経営者だと評価されているらしい。
私と里佳子さんでは同じ秘書とは言っても立ち位置が違うのだ。

「とりあえず自分で淹れてみるから、うちの会社にも届けさせてくれ」
「いいけれど・・・」

勇人が自分でコーヒーを入れている光景って想像できない。
できることなら私が行って淹れてあげたいけれど・・・里佳子さんが嫌よね。

「ミルするのは大変だから挽いたものを注文しておくわ。冷蔵庫で保管すればしばらくは美味しく飲めるはずだから」
「わかった、頼むよ」

里佳子さんでなくても、コーヒーを入れてくれる女性くらいいるだろうから、少しだけ注文してみよう。
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