離婚前提から 始まる恋
「すみません、では東京に帰らせていただきます」
みんなに説得された後、父に向かって頭を下げた勇人はどことなく悔しそう。
その気持ちがわかるからこそ、私は黙っていた。

「じゃあ、花音も支度をしなさい」
一緒に来た私も当然一緒に帰るものと、母の声に促され私が立ちあがろうとした時、
「いえ、僕一人で帰ります」
勇人が私を止めた。

「勇人、どうして?」

「忙しい時だからこそ、花音も側にいる方がいい。一緒に帰りなさい」
妻は夫をサポートするものと思っている父さんらしい意見。

「そうね、こっちは私が何とかするから花音も一緒に帰るべきだわ」
当然のように母さんも言う。

けれど、勇人の本心は別のところにあるのかもしれない。
もしかしたら、私を実家に残して帰ることで、里佳子さんとの時間が過ごせると思っているんじゃないだろうか?
私のことが邪魔なのではないだろうか?
私はそんなことを考えてしまい、
「いいわ、私こっちに残る」
気が付いたら口にしていた。

「花音、あなた・・・」
母さんの不安そうな顔。

「お願いします。最近の花音はずっと食欲がなくて、全然食べられていないんです。こんなことがなくても、こっちで少し静養した方がいいとお願いするつもりでいたんです」

「しかし・・・」
何か言いたそうに、父が私と勇人を見る。

私と勇人が険悪な空気なのは両親にも兄にも伝わっている。
それでも私は視線をそらしたまま、勇人の方を見ることもしなかった。

「いいじゃないですか、勇人も花音もそれでいいと言うんですから。勇人は本当にそれでいいんだな?」
「ああ、頼む」
最終的に兄がその場を収めてくれて、勇人一人で帰京することになった。
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